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岡山地方裁判所 昭和26年(行)11号 判決

原告 共立工業株式会社

被告 玉野県税事務所長

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

一、原告の昭和二五年一〇月二日附法人事業税異議申立に対し、児島地方事務所長が昭和二六年四月五日附でなした「原告の昭和二二年八月一日より昭和二三年七月三一日に至る事業年度の法人事業税の課税金額を当初決定のとおり(課税標準額六六〇、六〇〇円)とする」旨の決定が無効であることを確認する。仮りに右請求が容れられない場合は、右決定を取消す。

二、児島地方事務所長が昭和二五年九月三〇日附でなした原告に対する昭和二二年八月一日より昭和二三年七月三一日に至る事業年度の法人事業税賦課処分を取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は製造業等を営む法人であるところ、原告の昭和二三年年度事業年度(昭和二二年八月一日より昭和二三年七月三一日まで)の法人事業税課税標準額の申告に対し、児島地方事務所長は昭和二五年九月三〇日附で右課税標準額を六六〇、六〇〇円と決定して事業税を賦課し、その徴税令書は同年一〇月一日原告に送達された。

二、これに対して原告は昭和二五年一〇月一三日岡山県知事に対し異議の申立をしたところ、児島地方事務所長は昭和二六年四月五日、経費の証憑なきため当初決定のとおりと決定し、同年四月九日右決定書は原告に送達された。

三、然しながら、一般に地方事務所長には右の様な異議申立に対する決定をなす権限はなく、又県知事から児島地方事務所長に対して前項の申立に対して決定をなすべきことの個別的委任もなかつたから、児島地方事務所長のした前記異議申立に対する決定は無効であるか、然らずとしても取消さるべきである。

四、又原告の昭和二三年度における税法上の損益は左記のとおりであるから、差引課税標準額は三七〇、四八五円となる。従つて課税標準額が六六〇、六〇〇円であることを前提としてなされた当初賦課処分並びに異議申立に対する決定はいずれも不当であつて取消さるべきである。なお県税に関する児島地方事務所長の権限はその後の組織変更により現在玉野県税事務所長に管掌せしめられている。

一、利益の部

益金合計            九、八二一、四九八円三六銭

二、損失の部

(1)  諸税公課            三四、八〇八円

内訳 (イ) 非戦災者税        二、五七七円

(ロ) 非戦災家屋税       三、六二七円

(ハ) 法人税延滞金及び手数料 一四、五一二円

(ニ) その他         一四、〇九二円

(2)  旅費及び交通費        六七一、四八七円六〇銭

内訳 (イ) 別紙第一目録の分   三三六、三八一円

(ロ) その他の分      三三五、一〇六円六〇銭

(3)  営業費            五六八、五六三円四〇銭

内訳 (イ) 別紙第二目録の分   三三九、五三八円

(ロ) その他        二二九、〇二五円四〇銭

(4)  営業雑費           四九一、七一四円五〇銭

内訳 (イ) 別紙第三目録の分    七六、四二八円三〇銭

(ロ) その他        四一五、二八六円二〇銭

(5)  役員報酬           一七二、八〇〇円

(6) 福利施設費          一五二、二二六円

(7)  その他の費目       七、三五九、四一三円八六銭

(8)  損金合計         九、四五一、〇一三円三六銭

三、差引所得金額          三七〇、四八五円

と述べ、立証として甲第一乃至五号証を提出し、証人松本東男、同田中鎮夫の各証言を援用した。

被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、

答弁として

一、原告請求原因第一、二項の事実は認める。

二、同第三項の主張は争う。即ち地方自治法第一五三条に基く地方事務所長専決処分規程(昭和二四年七月一日岡山県訓令第三八号)第三条第一号、岡山県税賦課徴収手続(昭和二三年九月二日岡山県訓令第四四号)第四条の法意は課税標準の決定に対する異議に対する決定をも地方事務所長の専決事項としたものである。

三、同第四項の事実中、原告の税法上の損益は左記のとおりであつて、差引課税標準額は六六〇、六〇〇円以上となるから児島地方事務所長のした課税標準額を六六〇、六〇〇円とする決定はむしろ寛大に過ぎるもので、これを前提とした右当初決定及びこれに対する異議に対する決定のいずれにも、取消事由となる瑕疵はない。

一、利益の部

益金合計 原告主張のとおり

二、損失の部

(1)  諸税及び公課  一四、〇九二円

(非戦災者税二、五七七円、非戦災家屋税三、六二七円の各支出は非戦災者特別税法(昭和二二年一一月三〇日法律第一四三号)第五一条により、又法人税延滞金一四、五一二円の支出は地方税法施行令(昭和二二年三月三一日勅令第一一五号、改正昭和二三年七月三一日政令第一九八号)第三条により、夫々損金に算入しないこととされているから、これを除外すべきである。)

(2)  旅費及び交通費 三三五、一〇六円六〇銭

(別紙第一目録記載の支出は旅費及び交通費とは認められない。)

(3)  営業費     二二九、〇二五円四〇銭

(別紙第二目録(1)記載の支出は明細書及び領収書がなく、渡切の支出であつて使途が明らかでないから賞与と推定されるものであり、同(2)記載の支出は領収書がなく会社業務に関係のない支出と認められるもの及び使途不明のものである。従つていずれも損金に算入すべからざる支出である。)

(4)  営業雑費    四一五、二八六円二〇銭

(別紙第三目録記載の支出は営業雑費とは認められない。)

(5)  役員報酬   原告主張のとおり

(6)  福利施設費  原告主張のとおり

(7)  その他の費目 原告主張のとおり

(8)  損金合計     八、六七七、九五〇円〇六銭

三、差引所得金額    一、一四三、五四八円三〇銭

と述べ、立証として証人岡田利久、同倉恒至明の証言を援用し、甲第一号証の成立は認める、その余の甲号の成立は知らないと述べた。

理由

一、原告請求原因第一、二項の事実は当事者間に争がない。

二、そこで当時一般に地方事務所長が法人事業税の賦課処分に対する異議申立について決定する権限を有していたか否かについて検討すると、地方自治法第一五三条により県知事はその権限に属する事務を県吏員に委任しうるところ、右法条に基き発せられたと認められる昭和二四年七月一日岡山県訓令第三八号地方事務所長専決処分規程第三条第一号によれば県税の課税標準の決定が地方事務所長の専決事項とされた事実を認めることができる。そして右事項にそれらに対する異議申立に対する決定をも含むか否かについては、旧地方税法(昭和二三年法律第一一〇号)第二一条第一項の異議申立の性質が上級監督機関に対する不服申立制度ではなく、事案の早期解決をはかるため、事案の内容に精通した原決定者に対し再調査を求めその匡正の機会を与える性質のものであると解される以上、これを含むと解するのが相当である。従つて原告の異議申立に対し児島地方事務所長が決定したことは手続的に違法ではない。

三、よつて進んで原告の昭和二三年度事業年度における損益について検討するに、同年度における原告の益金合計が九、八二一、四九八円三六銭であること、原告主張の請求原因第四項損失の部各費目のうち(1)の(イ)(ロ)(ハ)、(2)の(イ)、(3)の(イ)、(4)の(イ)を除く部分については同年度中それらの支出があり且つそれらが法人事業税課税標準額算定上損金に該当する支出であることについては当事者間に争はないので、以下争ある各支出について順次検討する。

(一)  原告請求原因第四項別記二の(1)の(イ)(ロ)(ハ)について。

原告が昭和二三年事業年度中に非戦災者税二、五七七円、非戦災家屋税三、六二七円、法人税延滞金及び手数料一四、五一二円を支出したことは弁論の全趣旨によつて認められるところであるから、これらの支出が法人事業税課税標準額算定上損金として計上すべきものであるか否かについて考えると、非戦災者税及び非戦災家屋税については非戦災者特別税法(昭和二二年一一月三〇日法律第一四三号)第五一条により損金に計上すべきものでないと認められ、又法人税延滞金及び手数料については旧地方税法施行令(昭和二二年三月三一日勅令第一一五号改正昭和二三年七月三一日政令第一九八号)第三条により損金に算入されないこととされている「法人税の類」に属するものと認むべきであるから損金に計上すべきものでないと認める。

(二)  同(2)の(イ)について。

証人松本東男の証言によれば別紙第一目録146・147は岡山鉄道管理部との取引上の交渉のため原告会社専務取締役板東重孝、社員奥井成一に対し交通費として支出したものであることが認められるから右合計一、三三六円は必要経費であつて損金に算入すべきものである。然しながら同目録その余の支出については、成立に争のない甲第一号証にはそれらが出張費として支出された旨の記載はあるけれどもその具体的明細についての記載がないのみならず、その金額に端数のない点(193を除く)及び弁論の全趣旨によつて認められる右目録記載の場合以外の場合に支出された鉄道運賃及び出張費の額と第一目録記載の右各支出金額(146・147を除く)とを対照するとこれらは旅費交通費(鉄道その他の乗物運賃及び日当宿泊費と解すべきである)の支出としては多額に過ぎると認められる点、又右松本証言によれば右各支出は当該重役の口頭の要求に応じて随時支出され、その精算報告は受けない実状であつたと認められる点等を綜合すると、右各支出は機密費乃至交際費としてはともかく、少くとも旅費交通費に使用されたものとは認められない。そして右支出が旅費交通費以外の必要経費に充てられたとの主張もなく又立証も不十分であるからこの点の支出は本訴においては損金に該当しない支出として所得金額の算定をなすべきである。

(三)  同(3)の(イ)について。

別紙第二目録(1)(2)記載の各支出については、いずれも領収書の受領がなかつたことは弁論の全趣旨に徴して認められるところ、これらはいずれも領収書を受取り得べき性質の支出であるから、その領収書のない以上、使途に関する伝聞を内容とする証人松本東男、同田中鎮夫の各証言、重役からの口頭の要求をそのまま転記したと認められる甲第二号証、甲第一号証の記載だけでは、直ちにこれを肯認し難い。従つて同目録記載の各支出も亦損金に該当しない支出として所得金額を計算すべきである。

(四)  同(4)の(イ)について。

別紙第三目録記載の支出中140・141については、証人松本東男の証言及び成立に争のない甲第一号証によつてその支出のあつた事実並びに会社の業務上必要ありとして従業員花房章、同上堀勝彦の引越費用に充てられた事実を推認することができる。証人岡田利久の証言のようにこの場合木炭を運搬する原告会社のトラツクを利用することができた筈であるとしてもその様な事情は右認定の妨げとはならない。

又170については通常買付先から領収証を受取り得る性質のものであるから、その領収証のない以上、甲第一号証の記載及び松本証言のみではその支出及び使途を直ちに肯認し難い。又255については証人松本東男、同田中鎮夫の各証言及び田中証言によつて成立を認めうる甲第三号証の記載によりこれを肯認することができる。

516については期間使途の明細を欠く甲第一号証の記載のみではその支出及び損金該当の事実を肯認し得ず、他にこの点を証明する証拠はない。

又544については証人松本東男の証言及び甲第一号証の記載により従業員のリクリエーシヨン費用として支出されたものと認めることができるから、これは損金に算入すべきものである。証人岡田利久の証言及び甲第一号証の記載(交通費欄)により認められる従業員の一部が参加しなかつた事実は右支出の従業員リクリエーシヨン費としての性格に影響するものではない。

又718については証人松本東男の証言によるも、松崎定輔なる人物の役職務並びに原告会社に対する関係が明瞭でなく、従つて右金員が同人に交付されたとしても必要経費たる性格を有するものかの点につきたやすく原告主張を肯認することができない。又736については中国水産株式会社に対し三四、六二七円三〇銭又はそれ以上の貸金のあつた事実を証するに足る補助簿、現金出納帳等の提出がなく、又昭和二二年九月乃至昭和二三年七月間の昆布等の現品の仕入があつた事実を証するに足る補助簿その他の証拠がないので、甲第一号証の営業雑費の項にのみ一年分を纒めた記載があつても、直ちにこれを信用することはできない。加之、仮りにその様な事実が認められるとしても、右振替金を損金に計上するためには、右昆布等の現品が必要経費として相当と認められるに足る用途に使用するために仕入れられたものである事実乃至そうした用途に現実に使用されたことの立証が必要であるのに、甲第一号証及び証人松本東男の証言においてはその点が確認できない。

従つて140・141・255・544の合計金一二、五八六円は損金と認むべきであるがその余は損金に計上すべからざるものであることになる。

(五)  以上の結果、差引所得金額は一、一二九、六二六円三〇銭となるから、児島地方事務所長のした原告の課税標準額を六六〇、六〇〇円とする決定は、むしろ原告に有利であつてこれを前提とした当初賦課処分には取消事由となる瑕疵はない。

従つて亦これを維持した児島地方事務所長の異議に対する決定も瑕疵はないことになる。

以上の結果、原告の請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 伊藤俊光 森岡茂)

(別紙目録省略)

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